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「日本のライナス・ポーリング」もまた医者ではなかった!?
金子雅俊博士の業績

一般社団法人 日本オーソモレキュラー医学会(JSOM)ホームページより
執筆者 新垣 実先生のご了承を得て転載させていただきました。

執筆者 新垣 実(新垣形成外科院長)

金子雅俊先生(以下、金子先生)は数々の輝かしい業績を残されました。なかでも特筆すべきは、「血液検査解析に基づいた個別化栄養療法」の開発です。これはつまり、オーダーメイド治療(個別化医療)に相当します。

こうした金子先生の業績についてまとめた論文が、学術誌 Nutrients に承認されました。これは日本のオーソモレキュラー医学においてのみならず、医学界においても金子先生の業績が認められたということであり、大変誇らしく感じております。

そして今回、皆様にも金子先生の業績を知っていただきたく筆を執った次第です。

■分子整合 Orthomolecular

1968年、世界的学術雑誌 Science に、ライナス・ポーリング博士によって「分子整合」という考え方が提唱され、その意味を科学的に定義した論文が掲載されたのが始まり。

■ライナス・ポーリング Linus Pauling

1901年2月28日-1994年8月19日。量子力学を化学に応用し、化学結合の本質を解明して偉大な功績を残した科学者。地上核実験への反対運動での業績も認められ、2つのノーベル賞 (化学賞・平和賞) を受賞。分子生物学の先駆者でもある。エイブラム・ホッファー博士とともに分子整合栄養医学を確立

■金子雅俊

1935年5月20日-2020年5月5日。1970年代、健康を守ることへの解決策を探しに渡米。パーヴォ・アイロラ博士(栄養学者、自然療法医、ホリスティック医療を活用)、ライナス・ポーリング博士と運命的な出会いをはたす。1984年、日本におけるKYB運動をスタート。金子塾開講

はじめに

タイトルからいきなり「日本のライナス・ポーリング」という表現を用いましたが、異を唱える識者も多くおられることでしょう。
なぜなら、金子先生のほかにも、三石 巌氏、北原 健氏、山田 豊文氏など、日本のオーソモレキュラー医学に貢献された医師以外の科学者は数多くいらっしゃるからです。したがいまして、「私見」と注釈をつけることでご容赦願いたいと思います。

さて、個人として唯一ノーベル賞を2度受賞した、科学者としても知られるライナス・ポーリング博士が医者ではなかったことは有名な話です。そして、アメリカ医学界の権威であるメイヨー・クリニックとの、ビタミンCにまつわる激しい論戦があったこともよく知られています。金子先生の日本における活動もまた、アメリカと同様、医学界との激しいバトルの末に道を切り拓いて行かれたことは想像に難くありません。

私が金子先生をライナス・ポーリング博士になぞらえた理由は、真実を追求する探究心と論理的思考に優れていることに加えて、先見の明があり、まさに「天才」とよぶにふさわしい業績を残されたからです。

昨年、その金子先生が永眠されました。日本のオーソモレキュラー医学(分子整合栄養医学)の草分けである KYB(Know Your Body)Club を創設し、 そして金子塾の塾長として多くの後進を育てられた金子先生の死を悼むとともに、先生が残された偉大な業績について紹介したいと思います。

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輝かしい業績の数々

これは、1984年、医師のほとんどが栄養療法に無関心(あるいは無知)であった時代のことです。当時「栄養素が欠損すると病的な状態になる」という概念しかなく、「必要な十分量を投与することで病気を治す」という考えはありませんでした。

金子先生は KYB Club の活動をとおして、患者さん(正しくは被験者)に栄養療法の前後で医療機関による血液検査を受けさせ、データを蓄積しました。今や科学の分野では常識となった EBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医療)を30年以上も前に実践したのです。その後30年間で、延べ35万人ものデータを解析し、数々の発見をされました。

「がんに対するビタミンC点滴療法」を開発し、金子先生の親友でもあったヒュー・リオルダン博士は、著書『 Medical Mavericks 』において金子先生の業績を称えています。

また、1994年にはヘリコバクター・ピロリへのアプローチ法を確立し、ピロリ菌検査と除菌を推進しています。日本へリコバクター学会の前身である研究会の発足が1995年であることを考えると、当時の医学界でも、まだごくわずかの研究者しか知らない医学情報に取り組み、いち早く研究したことになります。

2001年には、その研究業績に対して、ピロリ菌研究の世界的権威であり、2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞されたバリー・マーシャル博士から感謝状が贈呈されています。

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その他にも、「潜在性鉄欠乏性貧血」の発見、「低血糖症」の発見、担がん患者における栄養療法の確立、高濃度ビタミンC点滴療法の紹介など、金子先生の業績は枚挙にいとまがありません。まさに「日本オーソモレキュラー医学の父」といっても過言ではないでしょう。
2007年、国際オーソモレキュラー医学会 (International Society of Orthomolecular Medicine) は金子先生の功績を称え、日本人として初めての Hall of Fame Year を授与しています。

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世界に誇れる画期的な「栄養療法」とは

金子先生の数ある業績のなかでも特記すべき偉大な業績が、「血液検査解析に基づいた個別化栄養療法」の開発です。この日本発の画期的な栄養療法は、西洋医学が最も苦手とする慢性疾患の予防あるいは未病段階の不定愁訴の改善に目を見張る効果を示したのです。本法は、後年「EBMに基づく栄養療法」として多くの医師が受け入れ、日本オーソモレキュラー医学会の創設に多大な影響を与えることになりました。

読者の皆様も健康診断などで血液検査を受けられたことがあると思います。その検査データには基準値(以前は正常値)があります。その基準値を外れると、異常値としてさまざまな病気の判断がなされるわけですが、金子先生は35万件のデータから、基準値をさらに進化させた「最適値(optimal range:最も健康に近い理想値)」を算出されました。

今でこそ最新医学であるアンチエイジング医学(抗加齢医学)の分野で、ビッグデータやA I(人工知能)を駆使して算出される最適値を、30年以上も前から研究されていたことになります。

一体全体どうやって? もうこれはタイムマシンにでも乗って未来の医学を覗いてきたかのような離れ業です。血液検査データの分析により、金子先生はさまざまな酵素の活性低下(=細胞の機能低下)が栄養不足により引き起こされていることを見出しました。また、不足した栄養素を補充することで、この機能低下を改善できることを発見したのです。

さらに、この栄養療法は、一人ひとりによって栄養素の処方が異なる「オーダーメイド治療(個別化医療)」に相当します。この概念も、最近になって統合医療の分野で提唱されている新しい考え方で、まさに時代を先取りした画期的な治療法といえます。

この度、英文の学術誌 Nutrients に金子先生の業績を「Personalized Nutritional Therapy Based on Blood Data Analysis for Malaise Patients」 として投稿したところ、2021年10月15日付で承認されました。

同論文では、総説として「血液検査解析に基づいた個別化栄養療法」を金子法(Kaneko’s Method)として紹介しました。学術誌 Nutrients は査読つきの権威ある医学雑誌として知られています。その医学雑誌が今回の論文を承認したということは、金子先生の業績が医学界でも認められたということになります。

10月15日は「第3回 日本オーソモレキュラー医学会総会」の前日にあたり、一会員として、また、金子先生の後進の一人として、大変感慨深いものがございました。

栄養療法の詳細については論文に記載しましたので、ご興味のある方は以下のリンクからアクセスいただければ幸いです。より多くの医師が本法を支持し、診療に取り入れられることを期待いたします。

〈論文〉Personalized Nutritional Therapy Based on Blood Data Analysis for Malaise Patients”

活躍する弟子たち

金子先生の意思は後進へと。KYB Club の活動は、長男の金子俊之氏ならびに次男の金子雅希氏へと引き継がれました。

 

金子先生の教え子としては、当学会の理事でもあり血液分析による栄養療法の普及に努める溝口 徹先生、低血糖症治療の第一人者・柏崎良子先生、 NPO 高濃度ビタミンC点滴療法学会を立ち上げた宮澤賢史先生、「妊婦と栄養」の渡邊一征先生、臨床CBDオイル研究会を立ち上げた飯塚 浩先生ほか、全国200ほどの医療機関で、さまざまな分野の先生方が活躍中です。

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